腰痛になったことがある方は分かると思いますが、腰痛になると仕事や学業、スポーツなど多方面に支障が出ます。そればかりか日常生活を送ることすら困難になることがあります。
僕自身、整形外科医という腰痛の専門家でありながら、ギックリ腰になってしまい1週間寝たきりの生活を余儀なくされた経験があります。
僕の場合は朝食を食べ終わって普通に立ち上がろうとした瞬間に腰に激痛が走り、そのまま全く動けなくなりました。大げさではなく本当に全く動けなくなったので、その場で1週間過ごしました。トイレに行くこともできないのでペットボトルに排尿していたほどです。
腰痛が出現するのは必ずしも重たいものを持つなどの腰への過度な負担だけが原因ではありません。最近の研究で腰痛の意外な原因が明らかになってきています。
今回は専門医でありながら腰痛に悩まされた患者としての経験を踏まえて、腰痛の原因に関して解説していきます。
腰痛による実害
2012年に一流の医学雑誌Lancet で衝撃的な論文が発表されました。 それは世界保健機関(WHO)を含む7つの世界主要機関による最新の研究報告によると、筋骨格系疾患(運動器疼痛)が 活動性低下に影響する主要な原因であり、中でも腰痛が最も影響を与えているという内容でした。 日本においても同様の結果が得られています。厚生労働省が公表している業務上疾病発生状況等調査(休業4日以上)によると、腰痛の件数が最も多いことが明らかになっています。 また日本でインターネット調査会社が20~79 歳のモニター65,496名に対してアンケートを行ったところ、生きている間に腰痛になる割合は 83.5%という結果が出ています。 世界でも日本でも腰痛によって影響を受けている人が多いことが分かります。 腰痛は国民病を超えて人類病と呼んでも過言ではありません。 そんな多くの人が経験する腰痛ですが、実は約85%がはっきりとした原因が不明なんです。 今回はいまだに謎が多い腰痛の原因について解説していきます。腰痛の原因
身体的要因あなたを含め多くの方が、腰痛は身体に負担がかかった結果生じると考えていると思います。専門医の間でも長くそのように考えられていました。 腰痛の原因を考えるうえで問題となるのが、検査で腰痛に特有な明らかな異常を見つけられないという点があります。 骨折や腫瘍など骨に明らかな変化がある場合を除き、ほとんどの腰痛がレントゲンやMRIなどの検査で変化を認めません。 医師は腰痛の患者さんに対して検査を行い、「ここの腰の骨が変形しているから痛みが出たんですよ」と説明しますが、同じように腰の骨が変形していても腰痛がない人はたくさんいます。 実際は検査では腰痛の原因を特定することができません。 つい最近まで専門家たちは身体に過度な負担がかかり、身体面に何かしらかのトラブルが起こって腰痛が出現すると考え、様々な説を唱えてきました。 主な説は以下のとおりです。 筋肉説
腰の骨を支えたり、動かしたりする筋肉に、肉離れのような筋肉の部分的な断裂や損傷が起きることで腰痛が出現するという説。
椎間板説腰の骨と骨の間にある椎間板というクッション材が傷んで腰痛が出現するという説。
椎間関節説腰の骨と骨を連結する関節や関節を覆う袋が傷んで腰痛が出現するという説。
これらの説は決して間違いではありません。 確かにこのようなことが原因で腰痛が出現しているケースもあります。 しかしそれだけでは説明しきれない部分が多々あるため、あらたに考えられ始めたのが心理的要因です。上記以外に、その他の病気が原因で腰痛が出現する場合があります。(腹部大動脈瘤や解離性大動脈瘤、ガンの転移、化膿性脊椎炎、腎結石、腎炎、婦人科疾患など)
なかには命に関わる病気もあるため注意が必要です。 その他の病気が原因の腰痛には以下のような特徴があるので、当てはまる場合はすぐに受診するようなしましょう。- 20歳以下
- 動きに関係なく痛みがある
- ガンの治療中
- 熱がある
- 胸も痛がる
心理的要因日本より一足早く、西欧諸国で身体面へのアプローチのみでは腰痛対策が立ち行かなくなったため、心理的要因が関係していると考えられ検証されていました。その結果、心理的要因が腰痛に関係していることが証明され、腰痛のガイドラインにも明記されるようにあなりました。 日本においても『腰痛診療ガイドライン』で「腰痛の発症と遷延に心理社会的因子が関与(推奨度 A)」、「職場における心理社会的因子は発症と予後に影響(推奨度 B)」と明記されました。 具体的には
- 職場の人間関係のストレスが強い
- 仕事の低満足度
- 上司のサポート不足(人間関係のス
- トレスが強い)
- 週労働時間が 60 時間以上
- 家族が腰痛で支障をきたした既往
- 抑うつ 身体化徴候