INTRODUCTION
僕は抗がん剤の副作用で指先の血管が破壊されてしまい、治療が終わってから5年以上経過しても指の冷えやしびれが残っています。
冬場やクーラーのきいた部屋では指先がジンジンしてつらいです。
患者さんに触れると「冷たいっ!」と驚かれることが多々あります。
僕と同じように指の先が冷えて困っている患者さんが多いのですが、今はとても共感できます。
今回は手や指が冷える病気について解説します。
この記事を読めば手や指が冷える原因を知り、どのように対策すればよいかを知ることができます。
手や指が冷える原因と症状
手や指が冷える原因は血液の流れが悪くなるためです。
血液の流れが悪くなる原因は、血管がいたんだり、心臓の力が弱くなったり、神経が障害されたり、振動する工具を長年使っていたり、ホルモンの影響を受けたりと様々です。
症状としては、冷えるという自覚症状以外にも以下のような症状があります。
- 触ったら冷たい
- 皮ふの色が青白い
- 痛い
- 皮ふ潰瘍(※1)ができる
(※1) 皮ふ潰瘍
皮ふ潰瘍とは、皮膚の表面が何らかの原因で傷害され、皮ふの深層(真皮)まで正常な組織が失われてしまう状態のことです。
ひどい場合には切断が必要になることもあります。
では具体的にどのような病気があり、どのように予防や治療をすればよいのか見ていきましょう。
① 閉塞性血管炎
バージャー病(Burger病)ともいいます。30~50歳の男性に起こりやすい病気です。ホルモンや喫煙による影響で起こると考えられています。足に起こることが多いですが、手や指にも起こります。
治療としては血管を広げる薬を飲んだり、交感神経ブロック(※2)を行ったりします。重度の場合は手術で血管の外側にあたる外膜を切除します。
(※2) 交感神経ブロック
交感神経に局所麻酔薬を注射することで交感神経の働きをブロックする治療です。交感神経をブロックすると血管が広がり血流が良くなります。
② 閉塞性動脈硬化症
中年以上の男性に多く見られます。糖尿病や高血圧によって動脈硬化になった場所に血の塊(血栓)ができて、動脈を塞いでしまうことで起こります。
予防としては動脈硬化の進行を防ぐために食事に気を付けて運動する習慣を身につけることで血糖値や血圧が上がらないようにすることが大切です。
治療としては血管を広げる薬を使います。血管の詰まりがひどい場合はカテーテルや手術によって血の塊を取り除きます。
③ 動脈血栓症
手のひらで繰り返し硬いものをたたいたりして負担をかけた結果、手のひらを通る動脈に血栓ができて起こります。予防は手のひらに過度な負担をかけないようにすることです。
治療は①の閉塞性血栓血管炎と同じです。
④ 動脈塞栓症
心臓の中でできた血栓が飛んで手の動脈に詰まることで起こります。心臓の病気をもっている人に起こりやすいです。
足に起こることが多いですが、腕の血管(上腕動脈)で起こることもあります。
治療としては血栓を溶かす薬の点滴を行ったり、カテーテルや手術によって血栓を取り除く治療を行います。
⑤ 一次性Raynaud(レイノー)症候群
手足の末端の細い動脈が突発的かつ一時的にけいれんして血液の流れが悪くなる病気をレイノー症候群といいます。このうち原因となる大本の病気がないものを一次性レイノー症候群と呼びます。
若い女性(10~20代)に起こりやすい病気です。両手の人差し指から小指までの4本の指先に症状が現れやすく、親指にはほとんど症状が出ません。
冷えたり精神的なストレスが引き金となって起こります。
血管を収縮したり緩めたりする神経の調節異常やホルモンの異常が原因だと考えられています。
予防としては指先が冷えないように気を付けたり、ストレスを感じたり溜めたりしないようにるすことです。
治療としては血管を広げる薬を飲んだり、交感神経ブロックを行ったりします。
⑥ 二次性レイノー症候群
大本になる原因があって起こるレイノー症候群を二次性レイノー症候群と呼びます。
血管内に原因がある血管内性、血管に原因がある血管壁性、血管の外に原因がある血管外性に分けられます。
それぞれのさらに大本となる原因は以下の通りです。
血管内性
寒冷凝集素と呼ばれる物質が冷えることで固まって起こる場合や、クリオグロブリンという物質が血管に詰まることで起こります。
血管壁性
閉塞性血栓血管炎や振動工具を長期間使用する結果、血管の壁に異常が生じて起こります。
血管外性
血管以外に原因があって起こるものです。交感神経が過敏になったり、胸郭出口症候群(※3)が原因で起こります。
(※3) 胸郭出口症候群
手や腕の神経の集まりである腕神経叢や鎖骨下動脈が鎖骨の下あたりで骨や筋肉によって圧迫されておこる病気です。つり革につかまるように腕を上げると症状が出るのが特徴です。
⑦ 肩手症候群
肩周囲のケガや、首から腕に向けて枝分かれする神経の根本(頚部神経根)が圧迫されることで、腕を思うように使うことができなくなった結果、交感神経が腕の血管の収縮やゆるみを調節できなくなることで起こる病気です。
予防も治療もリハビリテーションが重要です。
症状が強い場合はステロイド剤(※4)を投与したり、星状節神経ブロック(※5)を行います。
(※4) ステロイド剤
副腎で作られるステロイドホルモンを治療薬として使用したものをステロイド剤と呼びます。効能としては炎症に関与する遺伝子の発現を調節すると言われています。この結果として強力な抗炎症作用と免疫抑制作用が発揮されます。
(※5) 星状節神経ブロック
首の前面にある交感神経を星状節神経と呼びます。そこに麻酔薬を注射することで、交感神経の緊張を押さえ、上半身の血流を改善します。
最後に
ここで挙げた病気はあくまでも主なものであって、すべてではありません。
僕のような抗がん剤治療の副作用による場合もありますし、特に病気ではなく体質的に冷えやす場合もあります。
いずれにせよ冷やさないことや血流をよくすることが重要です。
簡単にできる予防としては、手袋やカイロで保温したり、運動することで血流をよくしたり、爪を押さえて刺激したりする方法があります。
僕個人の感想としてはストレッチやウォーキング、ジョギングなどの運動が有効でした。外からよりも内から予防する方が効果的です。
もし今回紹介した病気に当てはまるようでしたら受診を検討してください。