はじめに

足を長時間動かさずにいると、脚の静脈に血の塊(血栓)ができて詰まることがあります。

これを深部静脈血栓症といいます。

深部静脈血栓症になると、腫れて痛くなり、皮膚が赤紫色に変色します。

飛行機の長時間フライト中にエコノミークラスの乗客が足を動かさないことで生じることが多いため、別名エコノミークラス症候群といいます。

最近は震災時に車で一夜を過ごした人に頻発したことでもニュースで取り上げられるようになっています。

深部静脈血栓症が怖いのは、血栓が飛んで肺の血管に詰まり、肺梗塞を起こし命を失う危険性がある点です。

今回は深部静脈血栓症について解説します。

この記事を読めば、深部静脈血栓症の原因、予防、治療について理解できるようになります。

原因

深部静脈血栓症の原因としては

  1. 血流が停滞する
  2. 血管の内腔表面の膜(内膜)が損傷する
  3. 血液が固まる機能が亢進する

といったものがあります。

①血流が停滞する

血液の流れが悪くなると血液はドロドロになって固まりやすくなる性質があります。水路の水がせき止められると澱んでくるのと一緒です。

その結果、血管の中で血液が固まりかけの鼻血やかさぶたのようになり、血流をせき止めてしまい深部静脈血栓症を発症します。

血流は足を長時間動かさないでいると停滞します。

足を長時間動かさない状況として、先ほどお話した飛行機や車の中で長時間動かずに過ごすこと以外に、下半身の骨折のあとや、手術後があります。

また妊娠悪性腫瘍によって血管が圧迫されて血流が停滞し血栓を作ることもあります。

②血管の内腔表面の膜(内膜)が損傷する

高血圧や糖尿病、脂質異常症、肥満、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病喫煙により血管は硬くなります。すると血管は柔軟性を失うため損傷しやすくなります。

さらに血管が硬くなることで血管の機能が低下します。血管の機能が低下すると、血管の過剰な収縮が起こり血栓ができやすくなります。

③血液が固まる機能が亢進する

脱水になると血液がドロドロして固まりやすくなります。

また血液の塊を溶かす作用が障害されるATⅢ欠損症プロテインC・S欠損症抗リン脂質抗体症候群などの病気があると、血栓ができやすくなります。

経口避妊薬でも血栓ができやすくなります。

症状

深部静脈血栓症

下肢静脈、特に腸骨大腿静脈や膝窩静脈に起こりやすいため、下肢が腫れて痛くなります

立ち上がると皮膚が紅色になるのも特徴です。

ふくらはぎを圧迫すると強い痛みを感じるのも特徴です。

下肢にできた血栓が剥がれると、血栓が血流にのって移動し、肺の血管を詰まらせます。その結果肺梗塞を起こしてしまいます。

肺梗塞とは脳梗塞や心筋梗塞と同じ病態です。

梗塞とは血管が詰まったことで酸素や栄養が届けられなくなり、組織が壊死し機能障害に陥ることです。

脳梗塞であれば脳機能が障害され半身麻痺や失語などの後遺症を残しますし、心筋梗塞であれば心臓の機能が障害され急死することもあります。

同様に肺梗塞の場合は肺の機能が障害されるため、酸素を全身に送ることができなくなり命を失う危険性があります。

肺梗塞を起こした場合は、顔色が悪くなり、息切れや呼吸困難、胸の痛み、失神などの症状を認めます。

予防

血管を硬くしないためには生活習慣病やメタボ対策が重要です。

日ごろから飽和脂肪酸の多い食事をさけ、有酸素運動を心がけましょう。

煙草を吸う人は喫煙を心がけてください。

足を動かさないことで生じやすいので、座りっぱなしでいるのは避けましょう。

どうしても座りっぱなしになる状況であれば、足首を曲げ伸ばししたり、足踏みをするようにしてください。

弾性ストッキングをはくもの予防になります。

治療

深部静脈血栓ができた場合、動くことで血栓が動いてしまい、肺梗塞を起こす危険性があります。そのためまずは安静が治療の基本となります。

安静と同時に血栓を溶かしたりする治療を行います。

血栓を溶かす治療としてはヘパリンという薬剤を点滴します。その後ワーファリンという内服薬に切り替えます。

血栓を溶かす治療としてはウロキナーゼという薬剤を点滴します。

繰り返し起こす場合は下大静脈にフィルターを挿入して血栓が肺に飛ぶのを防ぎます。