脳梗塞を発症すると半身マヒや言語障害、思考や認知機能の低下など様々な後遺症を残します。
そんな脳梗塞の後遺症を減らすMuse細胞を東北大学の出澤真理教授が発見しました。
Muse細胞は京都大学山中伸弥教授が発見しノーベル賞を受賞したiPS細胞に次ぐ第3の幹細胞と呼ばれています。
今回はMuse細胞について解説します。
この記事を読めば、脳梗塞をはじめとした治癒困難な病気を修復する可能性を秘めたMuse細胞について理解できるようになります。
Muse細胞とは
Muse細胞は脳梗塞や心筋梗塞などを発症した直後に体内で増加し、傷んだ部分を自己修復するために働く細胞です。
Muse細胞は骨髄の細胞3000個に1個の割合で存在している細胞です。
骨髄とは
骨髄とは骨の中心に存在するスポンジ状の部分です。骨髄では赤血球、白血球、血小板などの血球が作られます。また血球のもとになる造血幹細胞も存在しています。
幹細胞とは
幹細胞とは色々な細胞に変化する能力をもった細胞です。造血幹細胞とはどんな血液細胞にも変化できる細胞です。iPS細胞もMuse細胞も幹細胞のひとつです。
Muse細胞は骨髄から血流にのって全身を巡り、全身の傷ついた臓器を修復する修復細胞です。
Muse細胞の凄いところは骨髄以外にも脂肪、臍帯(へその緒)などからも採取できるということです。
さらに凄いのは、神経、皮膚、筋肉、骨、軟骨、肝臓、すい臓など色々なものに変化する能力を持っている点です。
つまり全身のほとんどの臓器を修復する可能性があるわけです。
ラットを用いた動物実験では、脳梗塞を起こした部分で神経に変化し脳機能を回復するのが確認されました。
Muse細胞は脳梗塞や心筋梗塞になると、損傷した脳や心臓を修復しようとして増加します。
しかし損傷がひどい場合は修復が追いつきません。
その結果、後遺症を残してしまいます。
Muse細胞を投与することで修復を活性化させ、後遺症を減らすことができます。
2021年ヒトに対して行った治験で素晴らしい結果が出ました。
脳梗塞発症後14日から28日以内で、中等度から重度の障害がある人に点滴を用いてMuse細胞を投与したところ、身の回りのことができる状態(電車やバスを介助なしで利用できるなど)まで回復した人の割合は、偽薬を投与された人たちで37.5%であったのに対しMuse細胞を投与された人たちでは68.2%と有効性を認めました。
さらに職場復帰までできた人の割合は、偽薬では0%であったのに対し、Muse細胞を投与された人たちでは37.5%でした。
現在、脳梗塞以外にも心筋梗塞、脊髄損傷、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、表皮水泡症、新生児低酸素性虚血性脳症に加え、新型コロナウイルスによる呼吸不全に対する治験も行われています。
出澤教授は
Muse細胞は人間の自然治癒力を引き出す新しい医療です
と語っています。
Muse細胞のMuseはギリシャ神話の女神ムーサが語源です。
iPS細胞をも凌駕する可能性を秘めたMuse細胞が多くの病に苦しむ人たちにとって女神のような存在となることを願っています。