整形外科で増えている病気のひとつが腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)です。
腰部脊柱管狭窄症は誰もがなる可能性のある病気です。
今回は腰部脊柱管狭窄症について解説します。
腰部脊柱管狭窄症とは
腰部脊柱管狭窄症とは、腰の神経の通り道である脊柱管※1が狭くなることで、神経の束である脊髄神経(せきずいしんけい)※2が圧迫されて様々な症状が現れる病気です。
※1脊柱管:背骨の一部がドーナツ状になっている部分で、脊髄神経の通り道となっています。
※2脊髄神経:脳と直接つながっており、脳からの指令を体に伝えたり、体の感覚を脳に伝えたりする役割があります。
脊柱管を構成するものとして椎間板や靭帯(じんたい)などでも含まれています。
脊柱管のドーナツ状の部分を脊髄神経が通っています。
脊髄は場所によって次の4つの部分に分けられます。
- 首の骨を通る部分を頚髄(けいずい)
- 背骨の骨を通る部分を胸髄(きょうずい)
- 腰の骨を通る部分を腰髄(ようずい)
- 骨盤を通る部分を仙髄(せんずい)
腰の脊柱管が狭くなると腰髄が圧迫されます。
腰髄は両脚の運動や感覚のほかに、便や尿を調節するのに関係する神経の集まりです。
そのため腰の脊柱管が狭くなる腰部脊柱管狭窄症では、両脚や便、尿に関係する症状が出現します。
具体的には
- 歩いているとだんだん両脚が重だるくなって歩けなくなる
- 歩いているとだんだん両脚に痛みやしびれが出てくる
- しゃがんだり前かがみになると症状が楽になる
- 尿や便の調節ができなくなる
といった症状です。
実ははっきりした定義は決まっていません
腰部脊柱管狭窄症はご高齢者の10人に1人ほどが罹っているメジャーな病気であるにも関わらず、実は定義が曖昧なんです。
腰部脊柱管狭窄症が認識され始めたのは、1960年代に入ってからで歴史が浅いです。
初めに腰部脊柱管狭窄症の存在を指摘したVerbiestが1954年に発表した論文には
「患者は歩行や立位において、馬尾障害すなわち下肢における両側性の根性痛、感覚障害および筋力低下を示す。患者が臥位になるとそれらの症状は即座に消失し、安静時の神経学的所見には異常がない。一見すると,それらの愁訴は血管性の間欠跛行と誤解されうる。脊髄造影により硬膜外からの圧迫によるブロック像を示す」
と記載しています。
簡単に要約すると
「立ったり座ったりすると両脚に神経痛やしびれが出て力が入りにくくなりますが、横になると楽になります。一見すると脚の血流が悪い人と同じような症状だけど、検査で神経が圧迫されているのが確認できるので神経が原因だと考えられます。」
となります。
またArnoldiは1976年に発表した論文で腰部脊柱管狭窄症を
「脊柱管,神経根管、椎間孔における部分的、分節的あるいは全体的な狭小化であり、骨によるものも軟部組織によるものもある。」
としています。
簡単に要約すると
「脊柱管や脊髄から枝分かれした神経の通り道が、骨や靭帯などによって狭くなったものです。」
ということです。
日本脊椎脊髄病学会の脊椎脊髄病用語事典3には
「脊柱管を構成する骨性要素や椎間板,靱帯性要素などによって腰部の脊柱管や椎間孔が狭小となり,馬尾あるいは神経根の絞扼性障害をきたして症状の発現したもの。(中略)特有な臨床症状として,下肢のしびれと馬尾性間欠跛行が出現する」
と記載されています。
簡単に言うと
「脊柱管や脊髄神経から枝分かれした神経の通り道が、骨や椎間板、靭帯などによって狭くなり、神経が圧迫されて症状が出たもの。特徴的な症状として脚のしびれや、歩いているうちに脚がつらくなるので休み休みになるといったものがあります。」
という感じです。
またNorth American Spine Society(NASS)のガイドライン4では
「腰椎において神経組織と血管のスペースが減少することにより、腰痛はあってもなくてもよいが、殿部痛や下肢痛がみられる症候群と定義できる。腰部脊柱管狭窄症の特徴は、関与する因子によって症状が増悪したり軽快することである。運動や特定の体位により神経性跛行が惹起される。また,前屈位や座位の保持,あるいは安静臥床時には症状が軽快することが多い」
と定義しています。
要約すると
「腰の神経や血管が通るスペースが減ることで、お尻や脚に痛みがみられるといった様々な症状を認めます。腰痛はあってもなくてもいいです。特徴としては症状が悪くなったり良くなったりすることです。運動や姿勢によって休み休み歩くようになります。前かがみになったり座ったり横になったりすると症状が軽くなることが多いです。」
となります。
はっきりとした原因も不明
ある程度の年齢以上の方が腰部脊柱管狭窄症になることから、老化現象の一種ではあります。
長年負担がかかったことで、腰を支える腰椎や靭帯、椎間板などが変形したり変性(性質が変化すること)して脊柱管が狭くなり症状が出ることは明らかです。
しかしなぜ脊柱管が狭くなると症状が出るのかについては、現在のところ完全には解明されていません。
おそらく脊柱管が狭くなることで、神経が障害されたり神経の血流が悪くなることで症状が出ると推測されています。
原因が明らかにれば、腰部脊柱管狭窄症の定義が明確になったり、いくつかの病名に分かれたりする可能性があります。
腰部脊柱管狭窄症にオススメの薬
整形外科外来では腰部脊柱管狭窄症の人に対して、血流を良くする薬やビタミンB12製剤を処方しますがあまり効果がありません。
体力がある腰部脊柱管狭窄症の人は、漢方薬の牛車腎気丸と桂枝茯苓丸を一緒に飲むことで症状改善することがあります。
漢方薬にも副作用はあるので、医師や薬剤師に相談のうえ内服を検討してください。