と思っていませんか?
実は変形性膝関節症は段階に応じて様々な角度から治療する必要があります。
ここで紹介する治療法は日本整形外科学会の作成している『変形性膝関節症ガイドライン』にも記載されている医学的根拠のあるものです。
この記事では、変形性膝関節症に対する主な治療法9つについて、ガイドラインを元に紹介します。
この記事を読めば、変形性膝関節症に対する9つの治療法を知ることができます。
結論からお話すると、9つの治療法とは
- 運動療法/減量
- 杖などの歩行補助器具の使用
- 膝の装具
- 靴の中敷き(インソール)
- 電気刺激/温熱療法
- あん摩マッサージ指圧/鍼灸
- 薬
- 注射
- 手術
があります。
それぞれについて概要を説明していきます。
その前に変形性膝関節症についてザックリ説明します。
変形性膝関節症とは
変形性膝関節症とは、膝の軟骨や半月板、靭帯(じんたい)などがすり減って、痛みや腫れ、膝関節の動かしにくさ、変形などが起こる疾患です。
原因としては、長年体重を支え続けることによる老化現象として起こる場合と、ケガや関節炎などの後遺症で起こる場合があります。
日本国内で自覚症状がある人だけで1000万人、自覚症状がない(レントゲン画像上の変化のみ)人も合わせると3000万人もの人が変形性膝関節症だといわれます。
赤ちゃんや子供も含めた全国民の4人に1人は変形性膝関節症を患っていることになります。
ご高齢者に絞れば2人に1人は変形性膝関節症であると考えられます。
多くの人が膝の痛みによってあまり歩かなくなり、筋力が徐々に低下し、歩行困難となっていきます。
変形性膝関節症の症状を治療するには、医学的に実証されている様々な方法があります。
しかし単体ではあまり効果を発揮しません。
そこで様々な方法を取り入れる多角的アプローチが必要となってきます。
9つの多角的アプローチについて詳しく説明します。
変形性膝関節症9つの治療法
1.運動療法/減量
- 理学療法士による治療プログラムの実施
- 自宅での大腿四頭筋(膝を支える太ももの筋肉)トレーニング
- 有酸素運動(ウォーキングやサイクリング、スイミングなど)
を行うことは、症状を和らげる治療になります。
筋力が強化され、体重が減ることで、膝関節にかかる負担が減るためです。
2.杖などの歩行補助器具の使用
変形性膝関節症がある側と反対の手で杖などの歩行補助器具を使うことで、変形性膝関節症がある膝にかかる負荷が減ることは生体力学で証明されています。
3.膝の装具
装具を使用することで、痛みや機能が改善することを示すことを証明した研究結果が出ています。
変形性膝関節症の治療に関する9件のガイドライン中8件で推奨されています。
はオススメです。
4.靴の中敷き(インソール)
O脚が多い日本人の場合、膝の内側に変形性膝関節症が現れやすいです。
そこで外側が高くなった靴の中敷き(インソール)を使います。
その結果、膝の内側にかかる圧が減り、症状が緩和します。
ちなみに靴を衝撃吸収型のものにしたりスポーツシューズにしても、症状が緩和することは証明されていません。
日本人の足の形状に合わせて研究開発されたO脚・X脚インソール5.電気刺激/温熱療法
経皮的電気神経刺激療法(TENS)という治療法があります。
痛みのある部分や神経の根元に近い部分に電極を置き、低周波を通電して末梢神経を刺激することで痛みを和らげる治療法です。
多くの研究で効果が報告されており、10件中8件のガイドラインで推奨されています。
温熱療法は温めることで痛みを緩和させる治療法です。
温泉の入浴も温熱療法の一種です。
多くの人が効果を実感している方法ですが、医学的な効果は実証されていません。
ひざの痛みを徹底研究して生まれた家庭用電気治療器6.あん摩マッサージ指圧/鍼灸
あん摩マッサージ指圧とは、日本最古の医療系国家資格であるあん摩師資格に、西洋のマッサージ療法、明治時代に確立された指圧を組み合わせた手技療法です。
鍼灸は中国に起源をもち、病状や体質の診たてを行った後に、適切な経穴に鍼や灸を施します。
あん摩マッサージ指圧や鍼灸には
- 筋肉の血液循環を改善
- 修復を促進
- 痛みを抑制する仕組みを働かせる
といった効果があります。
7.薬
アセトアミノフェン(カロナールなど)
最初に使われることが多い薬です。
16のガイドラインで推奨されています。
軽症から中等症の変形性膝関節症に有効です。
効果が得られない場合は、増量したり、もっと強い薬に変更したりします。
非ステロイド性抗炎症薬(ロキソニン、セレコックスなど)
アセトアミノフェンで効果がない場合や、痛みが強い場合に使われる薬です。
研究の結果、変形性膝関節症の痛みを緩和することが実証されています。
胃腸や肝臓、腎臓などに負担をかける薬なので、長期の使用には不向きです。
外用剤
非ステロイド性消炎鎮痛剤成分の外用剤(ロキソニンテープ、ボルタレンゲルなど)は、皮ふを通して消炎鎮痛成分が患部に浸透し効果を発揮します。
手関節および膝関節の変形性関節症の患者計 1,983人を対象とした研究で、非ステロイド性消炎鎮痛成分の外用剤は、痛みの改善、関節の硬さの改善および機能の改善に優れていることが示さ
れています。
またトウガラシの辛み成分として有名なカプサイシンを含んだ塗り薬も慢性的な痛みの緩和に有効であることが研究で明らかになっています。
ただし外用剤は湿疹、かゆみ、灼熱感などの皮ふ症状が出やすいので注意が必要です。
4時間ほどで有効成分は浸透するので、それ以上長く貼るのは避けましょう。
また湿布をはった部位に直射日光が当たると皮膚炎を起こすことがあるので、肌の露出を避けましょう。
番外編:健康食品(グルコサミン、コンドロイチン)
グルコサミンおよびコンドロイチンは、軟骨の成分です。
グルコサミンの結晶性製剤は、欧州、アジアおよび南米の多くの国で医薬品として承認されています。
グルコサミンは 10 件中 6 件のガイドラインで推奨されていますが、コンドロイチンは7件中2件でしか推奨されておらず、有効性に関しては議論が続いています。
グルコサミンに関する研究をまとめた報告では
- 28%の痛みの緩和
- 21%の機能改善
が示されました。
コンドロイチンに関しては証拠となる研究結果はありません。通常のグルコサミンの3倍の体内補給効率を発揮する
8.注射
ステロイド注射
一般的にステロイド剤と呼ばれる副腎皮質コルチコステロイドという薬剤は、免疫細胞の働きを抑制することで炎症を抑える作用があります。
そのためアレルギーなどの湿疹に対する塗り薬や、喘息に対する治療薬に使われることが多いです。
変形性膝関節症の痛みも炎症が原因であるため、ステロイド剤を関節内に注射することによって症状を抑えることができます。
50 年以上にわたり行われてきており、既存ガイドラインにおいても 13 件中 11 件で推奨されています。
2005年に発表された研究結果で有効性が示されています。
研究結果によると、注射後 2~3 週目における痛みの抑制効果は中等度でした。しかしながら機能改善は得られませんでした。
注射後 4 週目および 24 週目では、痛みの抑制効果は認めなくなっていました。
ただしステロイド剤には、高血圧や糖尿病の悪化、関節での感染症、関節軟骨萎縮などの副作用があるため、頻繁には注射しません。
症状が強い時に応急処置として注射することが多いです。
ヒアルロン酸注射
ヒアルロン酸は、膝を滑らかに動かすために必要な関節液成分の一種です。
変形性膝関節症に対する有用な関節内補充薬として、9 件中 8 件の既存ガイドラインで推奨されています。
2003年および2005年に発表された研究結果では、週1回のヒアルロン酸注射を少なくとも3回行い、2~3 ヵ月目に痛みを評価したところ、軽度の改善を認めました。
ステロイド剤に比べて副作用が非常に少ないため、一般的に使用される注射となっています。
通常2週間ごとに注射を行い、5回注射した時点で効果を判定します。
症状が改善していれば一旦終了となりますが、改善がなければ引き続き2週間ごとに注射を続けていきます。
9.手術
人工膝関節置換術
膝関節の表面をカットし、金属とポリエチレンで構成された人工の関節に設置する手術方法です。
14件中14 件の既存ガイドラインにおいて推奨されている方法で、世界中で変形性膝関節症に対する治療として最も多く行われています。多くの研究で痛みや身体機能の改善が示されており、特に痛みに関しては早期にかなり改善していました。
他の治療で改善が得られない場合に行われます。
手術後経過が順調であれば、痛みが減り、機能も回復させることができます。
欠点として
- 膝は120度以上は曲げられない(正座は困難)
- 10年~20年で交換が必要になる
- 手術後に細菌感染すると治すのが困難
といったことがあります。
単顆膝関節置換術
膝関節の内側もしくは外側だけを人工膝関節に置換する手術です。
内側または外側だけに変形性膝関節症が生じている場合に行われます。
研究結果によると、人工膝関節置換術と単顆膝関節置換術の術後5年の膝関節の痛みおよび機能は同等でしたが、関節の動く範囲に関しては単顆膝関節置換術のほうが良好でした。
10 年後に人工関節を取り換えていた人の割合は
- 単顆膝関節置換術が 10~15%
- 人工膝関節置換術では10%未満
で、単顆膝関節置換術の方が取り換えする可能性が高いです。
高位脛骨骨切り術
高位脛骨骨切り術は、1960 年代に変形性膝関節症の治療法として開始された方法です。
脛骨(スネの骨)をカットして変形を矯正することにより、膝関節内側にかかる負荷を軽減させる方法です。
この手術を行うことで、人工膝関節置換術を行う時期を約 10 年遅らせることができるとされています。
研究報告によると、高位脛骨骨切り術から人工膝関節置換術を行うまでの平均期間は 6 年となっています。
骨切り術は膝関節OAの治療に関する既存ガイドライン10 件中10件で推奨されています。
関節鏡視下デプリドマン
関節鏡視下デブリドマンとは、膝の前面に1㎝ほどの小さな切開を2か所行い、関節鏡というカメラで関節の中の様子を見ながら器具を入れ、関節の中を洗ったり(関節洗浄)、剥がれが軟骨などのゴミを掃除したり、邪魔になっている半月板の端や骨の出っ張りを削ったりする手術です。
70 年以上前から行われている治療です。
軟骨がそれほど減っていないにも関わらず症状が強い場合に、検査も兼ねて行われることが多いです。
関節洗浄は3 件中3件の既存ガイドラインにおいて有用な治療として推奨されています。
関節鏡視下デブリドマンの有効性を検討した研究では、50~80%の人で痛みの軽減が得られ、効果は1~5年間持続することが示されています。
まとめ:自分でできる治療もあります!
治療と聞くと、医師任せになりがちですが、自分でできる治療もあります。
患者さんによくお話するんですが、治療は医師と患者さんが一緒に行っていくものです。
特に運動療法は日々の積み重ねが大切です。